謎のハムザ河

技術士  横井和夫



 
これは現在のアマゾン河の流域。最近ブラジル天文台チームが、”地熱を測定して”ここの地下4qに、長さ6000qの地下河川(ハムザ河)を発見と発表しました。ズバリこれは19世紀の地球内部空洞説か、日本の浦和水脈説に匹敵するデマゴギーか錯覚です。地下に帯水層があることは否定しませんが、それが河と呼べるかどうかは別問題です。真面目で世間知らずの物理学者がよく陥る落とし穴です。(11/08/28)


1、地球内部空洞説
 ではこの地下水はどういうところにあるのでしょうか?地下河川と云われると、人々は地下に大きな空洞があって、そこに地下水がザアザアと流れている様子をイメージするかもしれません。これはとんでもない間違いです。
 
19世紀末、地球内部に空洞があるという学説が流行し、これに触発されて、J.ベルヌが「地底旅行」という作品を発表した。我が国では、戦後山川惣治の「少年ケニア」で地底世界が取り上げられ、更に最近では「ドラエモン」にも地底世界が取り上げられている。これらは、皆19世紀の「地球内部空洞説」をヒントにしたものです。では、これはいい加減な思いつきかと言うとそうではない。まともな物理学者がまともに測定し、真面目に考えて到達した理論なのです。
 19世紀後半は、所謂帝国主義の時代。欧米各国が新天地であるアジア・アフリカ・太平洋地域の植民地化を押し進めた時代です。それとフランス革命以来、地球の大きさ、内部構造を明らかにしようという運動が盛んになった。そして、多数の探検家や探検隊が主にアフリカにやってきて、測地活動を始めます。これは要するに地図を作る仕事で、この結果は、各国による領土分割の根拠になるわけです。測定の項目は主に緯度・経度・標高、それと重力値です。
 重力に関するニュートンの法則により、距離Rにある質量M1、M2の物体間に働く力は
                 F=G(M1・M2)/R2)
 ここで、Gは重力定数でCGS単位系では6.67×10-8。 物体M2だけが作用したときの重力加速度gは
                 g=F/M1=G(M1/R2)
 M1は地球の質量、Rは地球の直径。これから地球の密度が得られる。さて、地球の密度を均一とすると、この式から得られる予測は、標高の高い場所ではgは小さく、低い場所では大きい値が測定されるはずである。ところが実際はこれと逆とか、理解出来ないようなデータが得られた。それを説明出来る幾つかの解の一つが、「地球内部空洞説」なのです。現在ではこれは全く否定さtれていますが、現在でも書店で、これに基づく本を見ることが出来ます。この説を否定するには、20世紀に入ってからの地震探査とか、他の物理探査法の進歩が必要だったのです。
 ブラジル天文台チームは200本以上の坑井コア(おそらく天然ガス採掘用)を分析したと云うが、コア解析だけでは、地下水が流れているかどうかは判らない。地下4qの地層が地下水で飽和されているのは当たり前で、問題はこの地下水が移動しているかどうかなのである。この問題の解決には、コアだけでなく坑井ログの解析が必要である。顕著な地下水流動層があれば、掘削中に坑内水位が急激に変化する。又、温度検層(サーマルログ)がまともに行われていたとすると、地下水流動層では坑内変化が低下する。我々は温泉掘削について、これらの現象を利用しているのである。報道によれば、チームは”地熱を測定”したらしいから、多分温度検層データを利用したのだろう。
 地下4qと言うことだから、中生代か古生代の石灰岩や火山岩など、多孔質岩盤があっても不思議ではない。
この隙間は極めて小さく、極端に云えば、ルーペや顕微鏡でなければ判らないレベルの大きさです。そういうミクロな世界でも水は移動する。これだけでは河とは云えない。我々(地質屋)の世界では、単なる滞水層か良くて地下水流動層です。

2、浦和水脈説